2018年08月24日

独りのことをいつまでも

 やばいと思ったときはもう遅かった。気にすることもなく、そして答えにもならなくて。
 それが私の酷いこと。そんな顔をしないで、とあなたは星空を眺めながら教えてくれた。それが嬉しくて、酷いこと。
 いつもそんな風に話していた私たち。
 だけど、つまらないことばかりで一人になっていたことを教えてくれたのもあなた。
 私はどこまでも日々を創り続ける。それは異世界にいた頃から変わらない。そしてどこまでも、広く、大きく。
 それは世界のことを知っているということ。
 でも傍にはあなたはもういない。
 それが辛くて、愛しくて、思わず涙を流して菫色に染まり切った夜空を眺める。
 私が幸せだった頃を思い出すのだ――。

「はぁ?」
 あなたはよくそんな言葉を返答として残す。そしてそれは馬鹿にしているわけでも、叱っているわけでもない。ただ、呆れているだけ。どこにでもある日常風景の一つなのだから。
「まったく、おめぇは」
 と言いながら、笑って私の頭をがしがし撫でる。その行為が好きだった。
 二人で想ったことはすぐにわかりあえる。そしてそれが美しく素敵だった。
 たった一つのことを除いて。

 あの日は私が雨の中、買い物から帰って来たとき。そぼろご飯を作るために料理をしようとやる気満々でキッチンに立ったとき。
 あなたは泣いていた。何かに悔しそうに泣いていた。面白いほどに私は動揺して、あなたの傍に寄り添う。
 どうしたの? と。
 私に聞こえないぐらい小さい声であなたは言ってくれた。今の記憶に残っているのはこれだけ。
 悔しい、と。
 その言葉は何に対して言っているのかはもうわからないけれど、それでも私はあなたがしてくれたように頭を撫でてあげた。泣きながら私にすがりつくあなた。そのまま夜にまで続いていった。
 そしてそぼろご飯を作り始めたのもそれからだった。

 今の私はもうあなたを思い出すことしかできない。どこに行って、「悔しい」という言葉を果たしに行ったんだろう。だけど。
「私は待ってるわよ」
 同棲していた家であなたを待っている。
 あのとき、笑いながら星空を眺めながら言ってくれた言葉は今でも思い出せる。
 しあわせってこういうことを言うんだろうな、と。
「さて、今日も星空のみんなに言おうかな」
 煌めいた星を見つめてくすりと笑ってしまった。
 さぁ、今日も。
 星空を見つめよう――。

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2018年07月09日

頃合いに見せた夕焼け

 私が知っていることはいつも誰かに伝わっているのだから。それが誰に伝わっているのかがわからないとしても。
 彼女を知ってからというもの、異世界にいることが当たり前だったことが今の私に理不尽なことを伝えてくる。いつものように遊んでいたのはどうして? と伝えてしまったことが思わず涙ぐむことでもあるのだろうか。
 それでも嬉しさを伝えているのが今でも思い出せることなのだ。
 二人で頑張った思い出の中で二人でいたことを写真に残して今でも思い出せるのはきっと幸せなことなのだろう。それはとても良いものでたくさんのことを思い出したことを今でも大切にしている。
 一生懸命に頑張った証として二人でいたことを大切にしたことを絆として今でも夕焼けを見つめている二人の影。一緒にいたのは私だけなのだろうか。二人は一緒にいたのだから、二人でいたことを思い出にしてしまったのだから。
 一緒に遊んでいた。それは大切。
 一緒に仕事をした。それは大切。
 哀願した思い出。それはいらない。
 だけど、一緒に遊んでいた思い出が再び思い出すのなら二人は証を築いたのだろう。そんなにも思い出したいことを心に残したのはどうしたなのだろう……。
 私が彼女に出会った日。あのときの夕焼けは今でも異世界に届いていると、今でも信じている――。

「頃合いに見せた夕焼け」

 人の及ばないことに対していつも彼女と笑っていた。なにも出来ないという理由ではないが、それにしたって言葉に残すのはどうしてだろう。わからなかったことが今ではものすごく大切だったのだと気が付いたとき、人は進化する。
 それは現実で体感した。そして異世界で体感することは一体何なんだろうと考えていたのが今でも思い出せる。
 そうして世界は変わりつつある。それはいつもの世界に感情を据えて理を探し、答えを知ることなんだと思ったことはいつの日からだったのかはもうわかっている。
 私がまだ幼少期のとき。それだけだ。
 私の一人の感想は彼女に思い出になってもらいたいからだと、今でも信じているのだから。そしていつものように朝ご飯を食べて、昼ご飯を作って仕事に出掛ける。そして仕事が終わったら運命かのように現れる逢魔が時。その中に自分がいた。その中に彼女がいた。
 それは大切で、それは大変なことで、思わず涙ぐむそんな存在。そしていつの間にか二人の思い出の中に街路樹が並び立っていることに気付く。その樹には樹齢がもうわずかだった。
 きっとこの樹の中に彼女がいたんだと思う。そしていつの間にか楽し気に遊んでいた、彼女との距離。彼女はよく笑っていた。娘の為に慣れてもない仕事に汗を流している。仕事を楽しんで涙を流しているのだから。娘との将来を考えて、それはいつも大切なんだと力説していたある理由。
 異世界に行くことで娘の病気は治るということ。
 いつものように、いつまでも、いつの日か、いつか。
 それは果てのない思い出。果てのない記憶の欠片。思い出したらいけないそんな独りの感情。
 わからないことが沢山あった昔なら頑張れたのだとよく私に零していた。嬉しそうに。楽しそうに。
 いつも、そんなことばっかり考えていた。だけど今ではもう考えることはない。それだけ、幸せそうに暮らしていたのだから。それだけ、思い出の中にいる自分が幸せそうに暮らしているのだから。そして思わず、彼女を連れて遊園地に連れて行ったことがあった。
 そのときにやっぱり考えていた通りになった。
 全然、楽しくなさそうだと。
 彼女は私が連れてきてくれたことに喜びはあったのだろう。だけど、中身に落胆したのだと。
 だから私は彼女を家に連れてきてカマンベールのチーズをふんだんに使った料理を賄った。そしたら異常なほど喜んでくれた。
 私を好いてくれている。私がやっていることに少しずつ興味を示している。それはやはり、私の幸せにもつながったのだ。
 思わず、そう思った。
 思わず、そう感じた。
 だから、彼女といたい。
 ただ、それだけ。

 夜色の茜空
 蒲公英が東雲を映しこんでいる
 葵の草原に花畑が並び立つ
 風に吹かれて樹々が立ち込める
 森林の中で小鳥が鳴いた

 外はもう暗くなっている。まだ茜色に染まっている辺りが美しく感じる。空にはまだ小鳥が飛んでいる姿を私は見ている。そして思わず、涙ぐむ、私。外の景色はこんなにも綺麗だったかなと、久しぶりに思ったのだ。
「ねぇ、なんで異世界に行こうとしているの?」
 彼女が私に何かを考えながらぽつりぽつりと言葉を零す。なんでかはわからないが、思い出の中で二人でいた記憶の中にでもいたのだとでも言いたそうだった。
「元気ないね。何かあった?」
「そうじゃないの。ただ、私はあなたが普通の料理を作ってくれたから嬉しかったの。それは私だけの大切な秘密とかじゃないけどさ。でもさ、私はあなたのことを好いている。別にレズビアンとかじゃない。普通に友達として。普通に親友として。だから、相談したいのだけどね」
 彼女は袖口を抑えて苦笑交じりに私を見る。その顔は久しぶりに疲れていると感じた。だけど、疲れているからこそ、彼女は輝くんだと知っている。二人で作った思い出をいつか形にしたいのだと感じた。
「そうね、でも。そんな相談をしているのだから一人でいたことでも思い出したの? 一人じゃ相談ができないんだよ、みたいな」
「そうじゃないけど、でも近いかな。単純に私がいたい異世界を創るってことを思い出すと、いつも笑っていたあいつのことがね」
「あいつって?」
「私と義姉妹の誓いを結んだ人。というか魔物。というか怪獣。というか魔人。というか」
「もういい。というかうるさい」
「すいません」
 どうでもいい話を挟むのは何か理由があるのだろうかと愚案してしまうのはどうしてだろう。
「まぁ、とにかく、そいつがね。現実世界にいる人を捕まえて実験したいとか言ってから」
「つまり、友達というものを捕まえてその実験台に移すために私を誘ったのね」
「そこまでは言ってない。というか自分を卑下にするのは止めてくれる?」
「でも、そんなにも大切なことを相談したいのなら今までなんで言わなかったの?」
「それはね、時期じゃなかったのよ。ある程度、時を使わないといけなかった。それが問題だったのよ。思わず、それを言いそうになったのが何度となくあったけど」
「ふぅん。でも、あなたのためなら運命を一緒にしてもいいとは言わないわ。その代わり、できる限りの呪詛を唱えようかとも思います」
「協力する気はさらさらないと」
「うーん。というか、何をするのかを押してくれないと。まさかマッドサイエンティストみたいなことじゃないでしょ?」
「さすがにそれはない。というかそこまで不幸なこともしない。いずれにしろ内容はまだ言えないけどね」
 私は何を迷っているのかわからない彼女を見ながら思ったのは、いつもの彼女じゃないということだ。
 鳥の声が段々と消えていくのは外の景色が色とりどりの思い出を頭に浮かべているからだということ。そして思い出の中に蒲公英は佇んでいる。それが揺れている姿が今の私に教えているような気もするが。そしていずれにしろ、彼女の為に、彼女の娘の為に、幸せを手にしてもいいのではないのかとも思う。そしてその義姉妹の誰かさんにも。
 言葉として思い出すのならそれがたとえ、昔のことを思い出したのだとしてもちょっぴり泣ける話でもあるのではないか。
 それは幸せの為に自分を粉にして掴もうとする姿を見守るということ。
 そんな彼女が今、私を使おうとしている。言葉としては酷いのだが、そういう意味があるとしたら私は考えてもいい。
「それがたとえ、自分が異世界に行こうとしても」
「ん?」
「いや、ちょっと考えていたの。いつものようにたとえとしては思い出の中で記憶をひっくり返すこと。その記憶を具現化するということ。それぐらいだろうか」
「そうなのかな。でも少しはこの家から異世界に行くことがたとえ思い出の中から出ることになったら、それはとてもステキなことなんじゃないかな」
「そうなの?」
「そうだよ」
 と、さっきの苦笑を変えるかのように綻んだ彼女。まるで何かを決意した瞬間だと。「思い出」という言葉が私たちのキーポイントになっているのだと考えたら少しは面白いかもしれない。
 そしてこれから、何も考えることなく、単純に思い出を探しに行く旅とでも言いそうなのだろう。私は旅という魅力に憑かれてしまった人間。そしてこれからもずっと、ずっと。続くのだ。
「じゃあ、今日はどうするの?」
「ん? もう空がころころ転がるかのように色を変えていたらどうする?」
「なに、突然に意味不明な」
「異世界だったら、どこにあるの?」
「いや、だから、何を意味不明なことを言っているの?」
「さぁね。でもそれが一番大切なんじゃないかな」
「そうなの?」
「意味をわかろうとすること。存在を理解しようとすること。意義を知ろうとすること」
「突然何?」
「異世界ではその三つが今んところ重要なんだよね」
「へぇ。じゃあ、時々に美しい景色でも見ればいいの?」
「意味不明には意味不明ってこと?」
「そうじゃありません。意味をわかるのなら、美しい景色をどういった意味として考えるのかなって」
「うーん、ちぐはぐな気もするけれど、もちろん、「綺麗」であっているかな?」
「あーー、なるほど。そういうことね。そのままの意味なんだね」
「うん。じゃあ、今日はここらで寝ますか」
「いつから異世界に行くの?」
「異世界はまだいいよ。でもずっと友達としていてくれるのなら、必ず異世界に行くから」
「はーい。じゃあ、私は夜空の下を散歩してくる」
「うん、わかった」
 そして彼女はタオルケットの中に身をくるむ。一人で大丈夫なのかはわからないけれど。
 私はリビングの近くに置いてあるテーブルと椅子から立ち上がる。壁に掛けられている服を取る。トレンチコートを外に持ち出す季節だというのに、外の景色に見えた蒲公英がわからなかった。今の季節に咲いたっけ、と思いながら外に出る。
 靴がまだ色褪せていない。そして言葉を並べながら、呟きながら、ずっと子供のころから夢見ていた夜空を眺める。
 星々が綺麗で海辺の近くに住んでいる私は海辺まで歩いていく。空に見えている流星群が美しかった。
 昔、プラネタリウムで見た通りの星々に感動したことがあった。人工的なのにそれでもアトラクションで遊ぶよりも楽しかった。
 親にせがんで何度も行った。そして何度も感動した。そして自分でも作りたいって思った。
 そして大学の研究会にもそんなサークルがあったからもっと嬉しくなった。周りのみんなは怠惰だったけど、一人だけ、私と同じ人がいた。理由は違ったがサークル活動を私と一緒に行っていた。
「今は、どうしているんだろうな」
 私は海辺に着いた。そして丸太の椅子に座る。そこで海をのんびりと見ることが楽しいのだ。

 朝空に輝く陽射し
 空に飛ぶ雀か樹々に止まる雲雀
 海辺に佇む影法師
 波飛沫の光
 吹きすさぶ風に便りを送った

 どこに行けばいいのだろう。少し、朝になって海を見ていると、どうやらここで眠っていたのだろう。私はいつ意識を失ったのかはわからないが。とてもじゃないが、思い出の中にいるのが彼女だけの可能性があったりなかったり。
 いつの間にか大切な思い出になっているのはどうしてだろう。今のままでも良かったりもするが、とりあえず、陽射しが目に突き刺さるので起き上がる。
「はぁ、なんか、家に帰る気分じゃないな。何か嫌なことがあったわけじゃないんだけどねぇ」
 思い出の中で二人のことを思い出していたのだ。それほど嫌なことではないのだけど。

 思い出の中で一人で語っていたある人のことを手紙に残したのなら私は一体何をしていたのだろう。それだけ意味の分からないものだろうか。そして言葉に残したものは今でも大切にしている。そして運命と共にやってきた共同体は今でも意味の分からないものになっている。言葉は残せているのか、それとも残していないのか。わからないけれど、それでも彼女と一緒にいた空気感を大切にしたくて。」 思い出は叫ぶ。私が考えている「思い出」と言葉上の思い出は決して違うのだが、それはそれで正直に語りたい。
 彼女は今でも泣いている。彼女は異世界のことを思い出したくないと今でも言っているということ。それはとても大切なことなのだろうと、思い出してしまった。彼女のことを探しているのだが、思わず思っていることを涙ぐむ自分がなぜかそこにはいた。
 いつも笑っていたのだからそれはそれで良いのだから。異世界の世界に行きたいのだと感じている。感じ方が思い出の中で二人の感情を映しこんでいたフィルムがくるくる回っている。頭の中にある自分の世界が今でも疼いている。心に叫んでくれてもいいのではないのだろうか。そんな意味深でもない、馬鹿らしいことを考えていると影が出来た。
「やっぱりここにいたんだ」
 ん? と顔を上げると傘が差されていた。そして後ろを振り向くと彼女が綻んだ表情を見せてくれた。どうしてこんなにも辛いことをしているのかを感じずにいられなかった。そしてこれからのことを頑張りたいのだと思い出したくて。思い出の中で二人でいたいと信じていた頃は何故、彼女にこんなにも執拗になって一緒にいてあげたいと思ってしまったのだろう。思い出の中でどこにもいたかったのだと私は思っているのだろうか。彼女は今でもここに来る理由があるのだろうと、考えてもいい。それに。
「なんで、ここだと?」
「それは、あなたが心に響く景色だと言ったからだよ」
 あぁ、と生返事を返してしまったが思わず私は海辺をまた見遣る。彼女が作ってくれた影以外を。
 樹々が立ち並んで海辺に沿っているのが綺麗。そしてその樹に何度も止まったり飛んだり、その蒼空を観察している雲雀の心が手にわかるような感覚。それは美しき世界だと思ってしまうのも無理はないのかもしれない。
 海辺に漂う海鳥はどこにでもいそうな魚を捕まえて飛びたいのだと思っているのかもしれない。波飛沫の輝きに思わず目が眩む。心に残した景色はこんなにも幸せな気分を教えてくれるなんて。私は嬉しくなった。
「ここでまたのんびりと待つの?」
「いや、それはしない。でも、待っても良いのかもしれないね」
「そっか。コロンのことになったらあなた変わるもんね」
「コロン、か。私ね、今でもそのペンネームを使うのが嬉しいの。作者になってしまったのは今でも変わらないことなんだと思う」
「よくわかんない」
「そりゃそうだよ。でも、二人で頑張った証を作りたいのは気のせいじゃないんだから」
 彼女は微笑んで傘を差したまま服を見遣り、私の隣に座る。青色に染まったワンピースを私は時々綺麗だと感じる心があって嬉しかった。思い出の中にいる彼女は青色に染まっている。そしてこれからもこんな日常が続くんだと思っている。それをなくすことなんて絶対にしたくない。何故かそう強く感じる。
 私の昔を言っても仕方ないのだが、思い出というものはそういうものだから、必死に創っても異世界には勝てない不思議さがあるのだ。普通は異世界と言ったらファンタジーというものを感じるのだが、そこはそこ、私たちにとっての異世界は二つある。
 一つは、単純に知らない場所。それは天という場所でもあると言っても仮定できるのだが。
 もう一つは、完全に見たことのないもの。というか、場所。
 言葉にすることがとんでもなく難しいのだが、今いる私達の世界の違うものと言っても違うのだから説明に困る。ただ、あり得ないものがたくさんあるといったらそれは間違えではない。
 嬉しそうにその異世界から来た彼女は私と出逢って二人のことを喜んでくれたのだ。コロンだったり、カランだったり。あいつらはどこにでもいそうなキャラだが、ゲームの中にでもいそうだと思っても良いのかもしれないのだが。いつの間にかそんなことを考えていると、いつものようにほとんどのことを考えられないはずなのに、身体も覚えているものだと感じているのはきっと気のせいではない。恐ろしく想いを消費したものだと、何故か感じた。
 私のことを嫌いになっても良いのだと再び思い直した頃はいつの日だったのか。今ではもうわからないことになっている。いつしか、それが当たり前なことになってほしくないのだと、感じている。そしていつの間にか予想が当たらないことを必死に考えあぐねている。それが当たればそれでいいのだと。そして答えになってもない考え方を覚えてもいない。そして答えは一つだった。
 いつまでも続く物語を欲しがったのだ。どうして彼女は、と思わなくもないが。彼女はどうしてこんなに忘れ去られたのだろうか。彼女のことを想う私はどうしてこんなにも辛いのか。
 いつの日か異世界の世界で二人で暮らしたいと思うのは嘘でも偽りでもない本当の気持ち。喜びとあった哀しみがそこにはある。二人だから二つ。思い出の中にいるのは私だけなのだろうか。
 きっとこの二つを用意しているのなら、言葉なんていらないのではないかと勘ぐるのだ。きっと傍にあるものが支えてくれる。それが彼女のこと。彼女がいてほしいという理由。そしてこれから何かをするために、歓び事を教えてもらいたくて。
 海辺で彼女と波飛沫を見ていると、どこか遠くにいる人のことを思い出す。私の恋人なんかじゃない。私の尊敬する人ではない。面白おかしく人生を謳歌している人だったりするが、それは自分の信条を守っているのではないか、と思い答えを知りそれを悟性を持ち、未来に向けて考えていた頃を時々のように見たり切ったり。
 たゆたう海の波。風に乗っていろいろな想いが流されていく。綺麗な宝石を見つけたかのような嬌声をあげる、彼女。目の前に鶴がいるからだ。鶴は海辺をゆっくりと歩いている。その動きに心が動かされている私がそこにはいた。
 歓び事を知って、失わずにいられない思い出の想い。きっとこれからは何もできないのだろう。きっとこれからは何でもできるのだろう。でもそれは幸せなことなのだろうか。失わずにいられない想いを宿す私の心情はこんなにも荒れていた。まるで目の前の波が高く流れるように。
 それにしても綺麗な海だなと思っても心は笑っている。それは嬉しいことなのだ。それは楽しいことなのだ。
 だけど、一抹の不安を感じる。
 もし彼女がいなくなったらという、そんな辛い現実を想像してしまったのだから。
 そして今日が過ぎていく――。

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2018年06月01日

幼気な少年


 優しさの影で僕は泣いていた。いつも一人で公園のベンチに座って泣いていた。
 辛いことがあったわけではないけれど、それでも哀しくて泣いていた。
 何もかもが嫌になって、そこには何もなく。時々雨が降っても僕は構わなかった。
 やがて、空が晴れる。それは何の前兆だったのか。降り止まないはずの雨が止んだのが僕には不思議な気持ちを抱かせてくれた。
 思い出の中にいる少女の声が聞こえる。クリアに聞こえる。聞こえる声はいつものように私たちと呟いている。
 それは幻想の中で思い出した、そんな僕の言の葉。いつも泣いていた、そんな少年を抱いた想い。
 そして、僕はどうしても何もできない自分がもどかしくて。それは失いたくない存在だから。だから、一生懸命に私と呟いている少女を助けたかった。あの辛い世界から逃げ出したかった。
 だけど、僕の力の無さで何もできなかった。少女がとても「やさしい」言葉のおかげで大丈夫だったのに。それでも。
 少女を見つめて、帰っていく姿が僕には何もできなかったことを教えてくれた。
 そして、そんな時をずっと待ち侘びていた僕はいつも言っていた。
 ありがとう、と。

「幼気な少年」

 いつもは昔のことを韜晦するのだが、それは意味の分からないものに成り代わるものではないのかと思ってしまう。だって、それは何気に嫌だったことを想ってしまうのだから。僕と呼んでいた自分は、今、俺と呼んでいる。
 空はいつものように晴れていた。雲間に突き刺さる光の数だけ可能性があると教授はよく呟く。そして、そんなことを思い出す自分がどうしても信じられなかった。
 車の中で彼女と遊んでいた。運転席に俺の母さんがいて、丁寧なハンドルさばきでアスファルト道路を走っていく車を操っている。自分の手足のような動きに、さっきから早く峠を越えてほしいと突っ込む、隣の席にこの山を見ている父さんがいる。
「なぁ、誠。どうして、こんなにそらは明るいんだ?」
 さすが彼女。意味の分からないことを言ってのける。俺はいつもの声の調子で返す。
「さぁ。でも空はとりあえず、明るいのは昼間だけだと言ったろ? 今はそういう昼間っていう頃合いなんだよ」
「でも誠は明るくないのか?」
「とりあえず、俺は暗く人生を歩んだ形跡はない。それとそれは酷い言葉だ。そういうことを少しは自覚してくれ。心的外傷が疼く」
「しんてきがいしょうってなんだ」
 まさか、父さんからの言葉。俺はそれには返さず、車の中から外を見る。
 相も変わらず、峠からの景色は海辺に香る潮風を運んでくる。美しいとさえ思う珊瑚礁の青々とした水の澄み通る輝き。いつまでもそんなに変わらないからだと、そいつに言ってやりたい。というか隣にいるのだが。そして蒼空に飛行機雲が流れていく。太陽は夏を思い出させてくれる。
 今は社内に冷房が効いている。だから、思わず外の匂いを嗅ぎたいと思ったが、彼女が気になる言葉を零したので意識は後ろに向く。
「誠は本当にやさしいなぁ」
 昔の言葉だ。思い出の中にいる俺の本当の彼女。それを話して一緒にいてくれる、今の彼女。そういえば名前のプレートを俺はかけてなかった。
 振り返って、彼女の首からかけている紐付きのプラスチックのプレートを見る。
 心理学者 天月美鈴
 俺は心理学を専攻しているわけではないのだが、天月は心理学を修めたいと思っている。それはいいのだが、どうしてこんな結婚を前提とした付き合いをできるようになったのか。学科が違うのに付き合うことができるわけがないと周りからも言われたが。
 そのきっかけと言えるのかわからないが、素直に思えば、今に思えばそれがきっかけだったんだろう。
 天月の泣いている姿を廊下で見た。
 ただそれだけだ。
 そしてそれを周りから見たら哀憫の情があっただけだと言っていたが、天月がどうして、泣いていたのかを尋ねたときなぜか天月は俺を見て言った。
「私の孤独を埋めてくれることをしたいのだ」
 孤独が嫌なんだと、言っていた。それは俺の昔のことにもつながる。それが一緒だったということで、そのまま俺は天月を介抱するように話をするために喫茶店に行った。そしてそこで泣きながら、でもほとんど無表情で俺に孤独を埋める会話をしてくれた。とにかくたくさん。そこで俺の孤独についても話すと、突然。
「結婚しよう」
 と、とにかく突然のことに俺は苦笑した。そしてそんな俺も突然、こいつとならいてやってもいいかもしれないと思い、付き合いを良いと言った。
 そんな過去をどうして思い出したのかがわからないが俺はいつものように二人でいる時間を考えていたら、親が二人で帰っていたところを見かけ、今日につながる。それはまだ、付き合って間もない頃合いだったが俺を祝福するかのように応援してくれて、何故か、親公認のカップル誕生だということになってしまいました。
「誠。どうしてそんなに難しい顔をしているんだ?」
「どうした、天月。そんなに難しい顔をしているか?」
「いや、おの字みたいだな」
 どんな顔だ。そんなツッコミをしたかったが俺はそんな天月が好きなので笑うだけで収める。
「どうして笑うんだ?」
「いや、なんでもないよ。それにしても今日は朝から大変だな。なぁ、美瑠母さん」
「誰よ。というか、お母さんは嬉しいのよ。あんたがあの頃のことをまだ引きずっているのかと思う度に心的外傷が疼くのよ」
「だから、しんてきがいしょうってなんだ」
 なんだこの家族はと思わなくもない。そしてやはり親子なんだなと俺は思ってしまう。というか、父さん、心理学を知らなくてもトラウマぐらいは知っておいてほしいと思わなくもない。天然なのかもしれないが、それは天月にも言えることなのだが。
「さぁ、着いたわよ。どうして別荘に行かないといけないのかわからないけれど、二人きりで研究したいことがあるなんて、私にはとても楽しみだわ。誠、彼女を大切にしなさいよ?」
「わかってるよ。でも、母さんも昔のことを思い出したのか?」
「そうよ。お父さんも昔は私を見てよく言っていたわ。誠がずっと友達を作ってくれるのかって」
「しんてきがいしょうってなんだ」
「もう! お父さんも同じボケはいいから」
「あぁ、だが本当に知らないからな。トラとウマが関係するぐらいに知らないんだ」
「「確信犯!」」
 あっはっは! と父さんは豪快に笑う。そしてそんな家庭に天月を連れて来れて良かったと心の底から思えた。天月は相変わらず無表情だが、楽しそうにしているような目つきに変わっていた。俺と、天月の幼馴染にしかわからない、そんな表情。
 俺と天月が車から降りると、車はすぐに今来た道を戻っていく。山の天頂にいるから早めに帰らないと暗くなっているアスファルト道路を走ることになる。峠の道は危ないから事故につながりやすいのだ。
「天月、行くぞ」
「うん」
 俺と天月は目の前にある別荘の管理人、そして天月の幼馴染がいるところまで歩いていく。声が朗々と聞こえる。その声は遠吠えのように響く。
 うるさいな、と思いながら陽射しが突き刺さっている天月の幼馴染に手を振ってやる。すると、青いジーパンに白のシャツを着こんでいる青年がこっちに手を振り返してくれる。
「天月。あいつ、どんな奴なんだ?」
「うん。誠とは似て非なる人物」
「それは厄介だな」
 相変わらず淡々とした口調だがどこか楽し気にしている天月の表情は見ていて飽きなかった。俺はいつものようにポケットに手を突っ込んで涙を流していた頃を思い出す。綺麗な瞳に似合わない彼女を見ているとどうしてか昔のことを嫌でも思い出してしまう。あいつがいなければ俺は。
「どうしたの? 誠君。ミスのこといつも考えてくれてありがたいんだよね。いつもミスって暗いから」
「杏樹に言われたくない。誠、無視していいから」
 いや、と苦笑を返してしまうのはやはり天月がまだ幼いような顔をしているからかもしれない。どこか、昔のあいつに似ているから、この杏樹と呼ばれた女性に俺は面影を被せてしまうのかもしれない。でも、どこかで見たことのあるような、そんな既視感。
「さぁ、二人の幸せな道を私も手伝っちゃいましょうか」
 笑顔で振り返って別荘の方に行く。俺と天月は杏樹の後をついていった。

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